獅子王戦2021 決勝戦 Geraltさん vs ハリュマルさん

獅子王戦2021のご紹介もとうとう今回が最後。
3回戦第4局、決勝戦の模様をお送りします。

先手は、エントリー〆切での私horawoのツイートに爆速反応で参加表明をしてくれたナイスガイ・ハリュマルさん。
後手は、数々の中将棋大会優勝者にしてイベントで講師もつとめられるレジェンド、Geraltさん。
1回戦,2回戦で勝利を掴んだ、このお二方の対決です。

[先手(手前側):ハリュマルさん 後手(奥側):Geraltさん]

 
 

この対局、最序盤に大きな山場を迎えます。

後手側のこの陣形は「小西流高獅子外し」と呼ばれています。

先手が獅子を6段目に上げる「高獅子」に対し、後手は
▽9六仲人,▽9五歩,▽9四馬
という、3手一組の手を指します。

9四馬が獅子取りなので先手は獅子を逃げる手を指すのですが、これにより先手が1手分の手損をすることになります。
実質的に、先手番の有利が帳消しになる一手と言えるでしょう。

この「小西流高獅子外し」、かつてspacemanさんという中将棋プレイヤーの方が解説されていました。
引用させていただきます。
spaceman流高獅子外し(ウェイバックマシン)
 
 

おそらく先手側としては初見の戦法だったのかもしれません。
▲6八歩→▽9四獅子の獅子取りに、▲7七獅子としてしまいましたが・・・

なんとこのマスには足(効いている駒)がなかった!
同獅子となり、獅子のタダ取りが決まってしまいました。

先手は▲6八歩で右側の馬のラインを塞いでしまったのが痛かった。
代わって、1,2,11,12筋あたりの歩を上がるくらいがよかったのかもしれません。
 

その後は両者ともに駒組みが続きます。
後手の7六に配置した獅子の安定感が非常に大きいです。
そのため先手は低い構えを保ったまま進めるしかありません。それでもじっくり態勢を整えていきます。
 
 

74手目の局面。

先手は龍2枚を中央に展開し、獅子をけん制する態勢を作りました。
左側の駒組が少し苦しいので、攻めながらほぐしていきたいところ。

一方後手は左の龍を10一に隠居。
銅と銀の位置がまだ低いですが、この局面での狙いははっきりしているのでまずはそこから。
▽8七歩と突いていきます。

同歩に対して同獅子には4十一からの同馬があるので、8七の好位置に獅子を設置することはできません。
ですが、10筋の飛車を1手で8筋に持ってこれるので勢いは止まらなさそう。

一方先手は飛車が11筋に行ってしまっているので、少々受けにくいです。

先手も11七歩と突いて反発します。その意味は18手後に。
 
 

92手目。

歩突きでできた空間に銅と猛豹を上がり、麒麟と馬を下げて飛車を8筋に回ることができました。
本譜はスマートな手順でしたが、戦いの場に竪行,飛車,龍王といった縦に効く駒を援軍に送る場合、少々強引でも空間を空けに行く手が良い手になる場合が多いです。
 

しかしその後、後手は獅子で先手の左側を食い荒らすことに成功。
先手は獅子を追い払いますが、逃げた獅子とともに戦いの場は再び中央に。
 
 

129手目。後手番です。

ここで強力な一発が入りました。
 
 
 
 

▽8八鳳凰。

中将棋には両取りの手筋が非常に多いです。
一説には48の両取り技があると言われてますが、その半分は鳳凰を使った両取りです。
縦横1マス、斜め2マス先にジャンプできる鳳凰は、とても両取りに向いています。
両取りのために鳳凰がいるまであります。

この形では角と龍に両取りがかかっています。

鳳凰の価値ですが、おおよそ以下の通りになっています。

銀,銅,豹,金,虎,麒麟 < 鳳凰 < 竪行,横行,角,飛車,馬,龍

角を取っても龍を取っても駒得になります。
 

鳳凰は成ったら奔王になるからもっと高いのでは?
今そう思った方、あなたは鋭いです!

実際に鳳凰がかなり前に出てきていて、あと1手で成れるところまで来ているので、この局面の鳳凰の価値はかなり上がっています。
もっと駒が少なくなり、成れるマスが増えてくると鳳凰の価値は角や飛車よりも上がります。

ですが、まだ成って生還できるマスがない現時点。
鳳凰を差し出して角を取ることで、相手の戦力を大きく削減できまし、そもそも駒得です。
十分有力な手と言えるでしょう。
 

この両取りで龍を手放してしまった先手、精神的ダメージも大きかったか。
手が進むごとに戦力差が開いていく形となり・・・
 
 

252手目。

ここで先手は投了。
先手も馬,角,奔王を残してはいますが、後手の残存戦力は非常に大きく、投了やむなしのところ。
後手陣の飛車,龍王,奔王,獅子が全て角では捉えられない位置にいるのも非常にポイントが高いです。
 

ということで、「獅子王戦2021」。

栄えある優勝はGeraltさんとなりました!!

 
 

00’年代初頭に一つの中将棋ネット棋戦が行われました。

「獅子王戦」

当時はまだ対局環境も整備されていなく、残念ながらいくつかの対局を残したまま終わってしまったそうです。
 

その棋戦を現代に蘇らせた「獅子王戦2021」。

SDIN中将棋という素晴らしい対局環境と、YouTubeライブという司会と実況をこなせる環境。
そして8名の参加者のみなさま。

みなさまのお力で、全対局を無事最後まで執り行うことができました。
本当にありがとうございました。
 

そして、ここまで読んでくれたあなたにも最大限の感謝を。
もしよかったらぜひ。
中将棋で遊びましょう。
 
 

獅子王戦2021 3回戦第3局 フォクソンさんvs中村充さん

スマブラ最後のファイターはキングダムハーツのソラでした。
モータルコンバットからサブゼロ参戦でCEROレートが一気にZまで引き上がる・・・
ひそかにそんな展開を期待していたのですが、んなもん実現するわけありませんわな。
 
 

さてさて、獅子王戦もいよいよ大詰め近しということで、3回戦第3局、フォクソンさんvs中村充さんの対局のレポートです。
この対局に勝った方が3位。気合も入ったところでしょう。

先手は中村充さん、後手はフォクソンさんで対局開始。

[先手(手前側):中村充さん 後手(奥側):フォクソンさん]

 
 

序盤は大人しい展開からの駒組。

81手目の局面。お互いの棋風が出ています。

先手中村充さんは左の馬を最下段に引く得意の構え。
3回戦第1局でも見られた
「角と馬を入れ替える」
手のバリエーションです。

馬が端まで行っていて視界から外れやすく、相手の見落としを誘う形にもなっています。
さらに奔王と右の龍も下段に引いています。
 

後手フォクソンさんも得意の戦法。
2枚の龍を玉に寄せて引く双龍戦法を取りました。

双龍戦法のバリエーションもいろいろありますが、本譜では3段目の飛車の通り道を広く開けているので、どの筋で戦いが起こっても柔軟に対応できそうです。
銀や猛豹も前面に来ていて、手厚いです。

後手はここから獅子を8六に上がり、左側に戦いの場を求めていきます。
 
 

102手目で後手が歩をぶつけて戦闘開始。

飛車を2枚とも10筋に投入し、お互い飛車,竪行,銅将を取り合いました。

さて、普通の将棋と中将棋。どちらも
「同じ価値の駒の取り合い」=「駒交換」
があります。

ですが、普通の将棋と中将棋では駒交換の意味合いが全く異なります。

普通の将棋には持ち駒があるので、待機戦力の増強の目的で駒交換が行われることが多いです。

一方、中将棋には持ち駒がないので、待機戦力の増強はできません。
中将棋では、
「交換で空いた空間を使って、残っている強い駒を運用する」
が交換の主な目的になります。

例えば、交換の結果最後に残った龍や馬をすぐに成れそうな形で残せたり、さらに交換が敵陣で起こった場合は成って終わることができたりすれば、成功と言えるでしょう。

交換後の128手目。

後手は広く空いた10筋に獅子を回りました。
先手は龍が3筋にいなく、また10十に居る麒麟が邪魔になっているので、すぐにその獅子を攻めることができません。

交換の結果、後手は最後に獅子を残すことができた。
そう考えると、後手の攻めは充分な成果を上げたと言えるでしょう。
駒の損得はありませんが、この局面は後手優勢だと思います。

もっとも、先手は先手で角や奔王が斜めのラインで獅子を狙っていて、そこは流石というところ。
1ミスでひっくり返ります。
 
 

その後戦いの場は中央にシフトしました。
中央のラインで龍交換が入った後の159手目。

後手は7五の歩を7六に突きました。
8四にいる角の道を通し、獅子を狙うディスカバードアタックです。

これを先手、痛恨のスルー。
獅子を失い、後手の有利が広がりました。

角や馬などの斜めに走れる駒で獅子取りをかけるときは、間にいる駒を動かしてディスカバードアタックをかけるようにすると決まることが多いです。

なぜかコンピュータ相手にもよく決まります。
獅子王戦2021の会場としても使わせていただいたSDIN中将棋や、Androidアプリ「中将棋」のCPU戦では、積極的に狙っていくのがおススメです。
 
 

192手目にいい手筋が出ました。
フォクソンさんのツイートでの解説が素晴らしいので、引用します。

角鷹の居食いを有効に使うのはなかなか難しいのですが、これは素晴らしい。
 
 

先手も懸命の粘りを見せますが、304手目。

鳳凰で龍を取って先手投了となりました。

終局図、鳳凰を成った奔王はすぐに取れますが、龍と獅子を始めとして残った駒の多い後手が勝勢です。
 
 

ということで、3回戦第3局、3位決定戦を制したのはフォクソンさんでした。

獅子王戦2021 3回戦第2局 松村大地さんvs三島のトドさん

これを書いている今、スマブラの最後のファイター発表まであと2時間を切っています。
いったい誰になるんでしょうね。やっぱり任天堂キャラかなあ・・・
 
 

さて、獅子王戦2021の続きです。
3回戦第2局は松村大地さんvs三島のトドさんでございます。

先手は松村大地さん、後手は三島のトドさんで対局開始。
[先手(手前側):松村大地さん 後手(奥側):三島のトドさん]

 
 

開始早々の6手目。先手の高獅子に対し、後手は早くも左側の仲人を突いてきました。

ぱっと見た感じでは獅子でサクッと取れそうですが・・・

ですが、4三の馬が良い感じに利いていて、仲人を取るには8九→10七と2手使わなくてはなりません。
さらに10七のマス目に獅子を置いておくためには、10八歩と突いて獅子に足をつける(駒を利かせる)必要もあるでしょう。

仲人一枚とるために、先手は
・何手か使ってしまうので、その間に後手に好きな手を指される
・獅子がそっぽに行ってしまうので、後手に中央を制圧される
というリスクを負うことになります。

駒得を取るか、リスク回避を取るか・・・
今はまだ中将棋の解析が進んでいるわけではありません。
ですのでこの局面でどちらが良い、とは言い切れないところです。
 
 

66手目。


後手は棒銅戦法の形から、後手が歩をぶつけて戦闘開始です。
三島のトドさんはこの棒銅戦法を得意としていて、本大会3局全てで採用されています。
そして本対局もこの戦法がスマッシュヒットとなります。
 
 

82手目▽11四飛車まで。

後手は9~11筋を攻め立てる陣形を整えました。
9六の獅子や3二の角もよく効いています。
11筋には飛車と竪行が控え、9鉢のマス目には仲人と角が効いています。
銅や猛豹が攻めの口火を切り、獅子が強烈な圧力で支配する。
そんな流れが見えてきます。

一方先手は獅子を援軍に出しづらく、辛いところ。
左側を受け切るのは困難で、駒の損得はありませんが後手やや優勢の局面です。

1枚でも守り駒が欲しい先手。左の金で飛車角を支えているのはいい判断かもしれません。
 
 

102手目の、11八に居た飛車を1歩進めて11九に成った手は面白い1手。

横行に取られそうですが、それには同獅子と取って飛車角の両取りが成立します。
先手は我慢するしかありません。

しかし先手もここから2枚の馬を駆使して反発。
角馬交換で駒損が広がってしまいますが、チャンス到来。
 
 

137手目▲6七歩。

第三者が見ると角道を開けた獅子取りだということがすぐわかるところですが、これが対局者には盲点になりがち。
なぜかと言うと、この歩上がりは角がいなかったとしても良い手なのです。

角がいないものとして考えます。

6七のマスには4九の鳳凰が効いているので、獅子で歩を取ることはできません。
そして放置すると、次の▲6六馬が奔王と獅子の両取りになってしまうのです。

こちらの「狙い」が先に見えてしまうと、そういうことかと納得して角の存在を見落としてしまうことになるのです。

結果、獅子の一本釣りが見事に決まりました。
 
 

その後は後手のミスを先手が的確に捉える展開が続き、最終局面。

▲6七飛車と上がった手が馬と角鷹の串刺しとなり、ここで後手投了となりました。

終局図では後手の戦力不足が大きく、辛いところ。
先手は飛車を失ってもまだ縦に走れる駒が龍,奔王の2枚あり、さらに成れば飛車になる金もあり、獅子と組ませて玉頭にプレッシャーをかけ続けることができるでしょう。
 
 

以上、221手で先手松村大地さんが逆転勝ちをおさめました。

獅子王戦2021 3回戦第1局 長谷川さんvs鈴木浩二さん

獅子王戦2021、今回からは3回戦についてお送りしたいと思います。

まずは3回戦第1局、長谷川さんvs鈴木浩二さん。
先手は鈴木浩二さん、後手は長谷川さんで対局が始まりました。

[先手(手前側):鈴木浩二さん 後手(奥側):長谷川さん]

 
 

獅子を6段目に上がる「高獅子」。
先手は高獅子を選択せず、後手が高獅子の構えを取る進行。

33手目の曲面。

先手陣は一見あまり動きがないようですが、左下にご注目。
角と馬の位置が入れ替わっています。
弱い駒は前へ、強い駒は後ろへ、の原則に従った組み替えです。

馬と角の並びを入れ替える方法は色々あるので、中将棋の対局や棋譜を見るときには、それについても注目してみてください。
 
 

52手目。

後手側は左右の仲人を突いて、自陣4段目の懐を大きく広げることに成功しました。
終盤に差し掛かってくると、4段目に上がった横行2枚がお互いを守りつつ相手の成りを封じる、という守備隊形が有効になりますが、その形が概ね出来つつあります。

ただし、後手が6五に歩を上げたことで角道が塞がったため、先手はいつでも▲8七獅子から仲人を取ることができます。
後手が押さえ込んでいる状況ですが、優劣がつくにはまだまだ至っていません。

中盤になり149手目。

5筋に猛豹&銀で拠点を築いた後手は、ここから大きく獅子を左側に転回させ、有利の拡大を狙います。
8手後には、10筋の歩の取り込みと12筋の銅の捕獲に成功しました。
11筋には竪行,飛車,奔王と前に走れる駒が3枚並び、後ろに猛豹や銀も控えているので、左側で戦いを起こしやすくなりました。
 
 

しかしここで先手も鋭い反撃。

何気なく5八の銀を5七に上がった手が強力。
後手は構わず獅子で12筋の銅を取りに行きましたが、その後▲5六銀と猛豹を取れたのが非常に大きいです。
見逃しがちですが、5六のマスには5十の飛車に加え、冒頭でも取り上げた左下の角と馬が効いています。
しかも角と馬が入れ替わり、最後に馬が残る形で。

これにより、先手は後手が5筋に築いた拠点の攻略に成功します。
5筋がバラされていくと、残ったお互いの縦に効く走り駒も、
先手は安い飛車。
後手は高い龍王。
結果、後手は5筋からの龍王の撤退を余儀なくされました。

この数手の戦いが本対局の大きな転換点となりました。
 
 

194手目。

後手は3四の盲虎を4四に寄せました。
ここで先手に決め手があります。
 
 
 
 

▲5一飛成 ▽5一同盲虎 ▲5一同龍成

後手玉が詰んでしまいました。
そして同玉同龍成となり、先手が後手玉を取って決着。
※中将棋は太子が玉の代わりになる場合があり、詰みではなく玉を取ることで決着がつきます

 
 

5筋の反発から鮮やかな詰みを見せた鈴木浩二さんが3回戦第1局をモノにしました。

獅子王戦2021 2回戦第4局 松村大地さんvs長谷川さん

獅子王戦2021の2回戦4局目。

先手松村大地さん、後手長谷川さんで対局開始となりました。

[先手(手前側):松村大地さん 後手(奥側):長谷川さん]

 
 

さて、中将棋で一番弱い駒は何か。
盤上にこれでもか〜これでもかとばかりにたくさんある歩です。

弱い駒なのですが重要な駒でもあり、有効な使いみちがいくつかあります。
この対局では、序盤で歩の使いみちがとても分かりやすい形で出ていたので、紹介したいと思います。
 
 

48手目の曲面。

後手陣に注目してください。
4筋を除くと、歩が5段目に横一列に並んでいます。

古代ギリシャの戦争では「ファランクス」という、槍と大盾を持った歩兵を横に広く並べて人の壁を作る陣形がよく使われていましたが、まさにそれと同じ意味合いがあります。
歩を横に並べておくことで、獅子が6段目に侵入することを防ぐ意味があり、中将棋の序盤戦ではとても有力な駒組みとなっています。

一段上がった効果で他のほかの駒を動かしやすくなっているので、銅,銀,猛豹を進めたり、飛車角などの位置を調整したりして、じっくり駒組みを進めていくこともできます。
 
 

63手目。
今度は先手の番です。

▲8七歩が上手い歩の突き。

獅子には居食いがあるので、基本的に歩や銀のような一手で1マスしか進めない駒をぶつけてもいいことはないのですが、この場合は獅子で歩を取った後に獅子を逃す場所がありません。
7六に引いたら獅子、8六だと龍に取られてしまいます。

後手側は獅子を逃すしかなく、先手は位取りに成功した形になります。
あとは銅や銀などで歩で作った位を確保する、隣の歩も並べて歩が並ぶ形を作るなどすれば、盤上の制空権を拡大していくことができるでしょう。
 

直後に先手の獅子が取られる事件が発生してしまうのですが、その後はお互いに小駒を前に出して戦い合う重厚な展開に。
ポイントで解説するよりは流れで見ていただく方が絶対に面白いので、ぜひ棋譜を再生してみてください。
 
 

一気に進んで319手目。

ここで先手に技が決まります。
 
 
 
 

▲10五奔王。
王手獅子取りです。

中終盤は盤に空きが増えてくる分奔王の価値が高くなるので、獅子との交換は五分に近くなることもあるのですが、飛車角馬といった走り駒が減ってくると、再び獅子の価値が大きくなります。
機敏な一手と言えるでしょう。
 
 

すぐ後の327手目。

先手は馬を成って角鷹を作りましたが、この角鷹を攻める後手の3手一組の手順は素晴らしいです。
 
 
 

▽3五竪行 ▲4十一 ▽5四横行

竪行を寄る手は一見龍を攻めた手に見えますがこれが角鷹攻めの布石。
龍を逃しますが続けての▽5四横行で、竪行を当てつつ逃げ道も塞ぎました。
この形となり見事に角鷹を御用に。

 
 

さらに手は進み・・・

最終曲面。

後手は8四の飛鷲を7五に一歩上がりますが、ここで後手がタイムアップ。

飛鷲を一歩上がったのですが、この時点で後手にはまだそこに止まるか元のマスに戻るかの選択が残っていたのですが、後手は先手に手番が移っていたと思った模様。

いや〜、これは初見じゃわかんないッス。
比較的レアなケースではありますが、同じ状況になったら気をつけたいところですね。

ただ盤面を見ると、先手は龍がいつでも成れそうで、かつ鳳凰と横行を残しているのが大きく、先手が優勢ではあったようです。
 
 

ということで、368手にも及ぶ大熱戦を制したのは先手の松村大地さんとなりました。

獅子王戦2021 2回戦第2局 ハリュマルさんvsフォクソンさん

2回戦第1局は1回戦勝者同士。
中村充さんvsGeraltさんの対局です。
なのですが…

すみません!棋譜を取り損ねてしまいました!
かなりのスピード決着だったようで、鋭い攻めが決まったものと思われます。
結果はGeraltさんの勝ち。決勝進出です。
 
 

……気を取り直して、2回戦第2局いきましょう。
こちらも1回戦勝者同士。
先手ハリュマルさん、後手フォクソンさんでございます。

[先手(手前側):ハリュマルさん 後手(奥側):フォクソンさん]

 
 

43手目の局面。
先手は高獅子、後手は玉の近くに龍2枚を引き付ける双龍戦法の構え。

お互いの奔王が最下段に引かれているのが特徴的ですが、これは手筋です。

中将棋というゲームをめちゃめちゃ大雑把に言ってしまうと
「自分の弱い駒で相手の強い駒を取るゲーム」
です。

銀や銅のような弱い駒を上がるといいよ~と言われる理由はまさにそれ。
加えて、強い駒を予め下がっておくこともまた良いことなのです。
飛車と角の特徴を兼ね備えた奔王は中将棋でも2番目に強いとされる駒で、序盤では今一つ使いづらいことから、最下段に下がる戦法が多用されます。
 
 

戦いの始まりは後手から。10筋から仕掛けていきます。
108手目の▽9七獅子→▽10七獅子は理想的な獅子の使い方。

1手前の局面、先手の駒の効いているマス目に色を付けてみました。
緑が濃いほどたくさんの駒が効いています。
銅の横、10七のマス目に先手の駒が効いていないことがわかるかと思います。
後手はその隙を見逃しませんでした。

仲人も取りつつ獅子を先手の駒が効いていないマス目に搔い潜らせます。

そしてこの形、銅取りを受ける手がありません。
 
 

苦しい展開が続く先手ですが、チャンスが訪れます。
144手目。後手が▽8八成龍と歩を取り込んだところ。
先手にいい手があります。

 
 
 

この手に対しては、▲8八同獅子と龍を取り込む手が成立します。
一見獅子に取られてしまいそうですが、11十一の馬がしっかり効いています。
(▲8八同馬もOK)

中将棋は盤面が広い分、低い位置に引いた角や馬は視界に入りづらく、見落としがちです。

私も何度も見落としたことがあり、後手の悲しみがホントにホントに良くわかります。
 
 

そして158手目。
後手は▽9七奔王と獅子取りをかけましたが…

 
 
 
 

▲9七同鳳凰と、奔王を取ってしまう手がありました。
斜め2マス先にジャンプできる鳳凰も、これまた見落としやすいポイントです…
 
 

ここで後手側無念の投了。

後手は駒損も大きく、さらに前に出た獅子に足をつける(ほかの駒を獅子のいるマスに利かせる)手段に乏しいです。
一方先手は獅子で左の横行などを狙えそう、また2枚の龍も成りやすそうなポジションをキープ。
先手大優勢、投了もやむなしの局面かと思います。
 
 

ということで、決勝進出はハリュマルさんとなりました。
超強豪Geraltさんとどのような戦いを見せるのか?
決勝戦の投稿はおそらく10月7日くらいになると思います。お楽しみに!

待ちきれない方はまとめページの下の方にある3回戦の動画を見てくださいね~♪

獅子王戦2021 1回戦第4局 Geraltさんvs長谷川さん

獅子王戦2021の1回戦第4局。

先手は、ここ数年行われた中将棋の大会の大半で優勝しているレジェンド・Geraltさん。
実況で「ゲライト」さんと呼んでしまい申し訳ございません。

そして後手は、札幌の中将棋界の総元締めにして将棋も中将棋も強い、長谷川さん。

このお二方の対局となりました。
 
 

[先手(手前側):Geraltさん 後手(奥側):長谷川さん]

 
 

ノーマルに先手が6段目まで獅子を進める「高獅子」の構えを取り、後手はそれを受けるという序盤。
そこから43手まで進んでこの形。

実況でも触れていますが、先手が8九に進めた銅が気になります。
銅将という駒は前3方向と真後ろの4方向に進めますが、この形では行けるマスがありません。
また角と馬の道を遮ってもいます。
一見悪形に見えるところですが…

ですが、右側で戦いが起こった場合、歩や仲人や銅銀猛豹などがいなくなったときに、3二にいる角を使った逆襲を予め受けた手でもあります。

獅子の位置を考えると先手は右側、後手は左側から戦いを起こしたいところ。
右側での戦いの成功率を上げるための、地味ながらも非常にテクニカルな一手です。

事実、先手は右側、後手は左側から戦いを起こしていきます。
 
 

78手目の▽3四横行は近年レベルの上がった札幌での中将棋会でもよく見られる手筋。

3筋における縦方向の防御力アップに加え、1九にいる先手の横行にプレッシャーをかけています。
反車と横行では横行の方がかなり価値が高いので、先手としては取り合いになる展開を避けたいところ。

しかし先手は逆に、この横行をターゲットとして攻撃態勢を作っていきます。
 
 

118手目の局面。

先手の次の手▲3五歩から3筋の駒の取り合いが始まるのですが、ここから後手は苦しい展開になっていきます。
先手の竪行 – 後手の横行,銅将の2枚替え、先手の銅 -後手の猛豹、先手の飛車龍 – 後手の飛車馬龍の2/3枚替えと、先手有利の交換が立て続けに行われます。

そして150手目、先手はさらにと金まで作り、右側を制圧することに成功しました。

 
 

ここから後手も待望の右側からの攻めを開始し、強い粘りを見せていくのですが227手目、ここで無念の時間切れ負け。
終局図は以下の通りとなりました。

横行2枚と獅子が温存されているのが大きく、先手優勢です。
 
 

ということで獅子王戦2021、1回戦の対局の紹介はここまでとなります。
次回からは引き続き2回戦の紹介をしたいと思います。
どーぞよろしく~

獅子王戦2021 1回戦第3局 フォクソンさんvs松村大地さん

獅子王戦1回戦第3局。
今大会(おそらく)最年少ながら切り絵作家の道を歩む将棋の強豪、松村大地さん。
「獅子将棋」開発者にして、中将棋もアブストラクトゲーム全般にも強いフォクソンさん。
このお二方の対局をお送りします。
 
 

[先手(手前側):フォクソンさん 後手(奥側):松村大地さん]

 
 

この対局も高獅子は後手。
先手の陣形は鳳凰がよく利いていて、一見弱点に見える6七のマス目を上手く守っています。

 
 

105手目の局面。
両対局者の棋風が特徴的です。

先手側で目を引くのは右側の1筋。
横行を3筋にずらして、猛豹を盾に反車,香車,竪行,飛車,飛車と縦に効く走り駒を集中させて端を破りに行きます。
さらに獅子も参戦させることで、相手の受けも制限させていこうという方針でしょう。

一方、後手側は中央が厚いです。
銀金銀のスクラムは非常に硬く、また各駒がそれほど高い価値を持たないため、相手側としては駒をぶつけづらい形になっています。
 
 

本対局で個人的に一番目を引いたのは149手目。

▲3五角と切りました。
2枚替えとは言え角と銅歩では角の方が価値が高いのですが、その後の獅子のポジションがかなり良いです。
先手は周囲の歩や仲人を取り放題で、破った1筋と合わせて後手の右側をかなり手薄にすることできました。

中将棋は駒の損得を重視するプレイヤーが多いためあまり見られることのない手筋ですが、このような手に新たな鉱脈が眠っている可能性はとても高いです。
妙手の予感がします。
 
 

しかしその後、松村大地さん側でアンラッキーな接続切れが発生。
幕切れとなってしまいました。
オンライン対局の辛いところですね…

最終局面もまだ状況はほぼ五分。

先手は後手の右側を大きく崩すことができ、角鷹を作ることにも成功。
後手は崩れた右側を逆に利用し、龍を成りやすい形を整えています。
お互いに強い駒も温存されていて、駒の損得もほとんどありません。(せいぜい歩1枚程度の差)
 
 

この先を見てみたいな~…とは思いますが、このお二方の対局を見ることができる日はまたきっと来るでしょう。
その時を楽しみにしたいと思います。

獅子王戦2021 1回戦第2局 三島のトドさんvsハリュマルさん

昨年のニコ生での素晴らしい解説が印象深い中将棋連盟会長、三島のトドさん。
対する後手は中将棋のために私に遠方から会いに来てくれたこともあるナイスガイ・ハリュマルさん。

このお二方の対局をお送りします。
先手は三島のトドさん、後手はハリュマルさんで対局が始まりました。
 
 

[先手(手前側):三島のトドさん 後手(奥側):ハリュマルさん]

 
 

8手目までの進行は少し珍しい形。

先手側はあえて獅子を6段目まで上げる「高獅子」の形を取らず、右の仲人と歩を上げ、右の馬で後手の獅子を押さえつける形を選択しました。
後手は高獅子でそれを迎え撃ちます。

右側の仲人と歩を上がることには大きな意味があります。
一つには攻めのラインを上げて盤面を制圧するという意味。
そしてもう一つには、角による獅子と馬との串刺し(チェスで言うところのスキュア)を防ぐ形を作るという意味です。

一例ですが…

上記の進行になった場合、1手目の▽11三角が、次の▽9六角の串刺しを狙った手になります。
先手側は4筋の仲人と歩を上がった効果で、▲4九馬と角筋から逃げる手を指すことができます。
 
 

対局大きくが動いたのは94手目。
▽3六鳳凰が獅子取りになっています。
鳳凰は斜め方向には2マス先にジャンプできる駒ですが、ほかの将棋類にはなかなかないユニークな性能のため、見落としになりやすい駒です。
本譜では獅子取りが見事に決まりました。

とは言え先手も諦めない。
その後も駒や局面の損得がほぼ変わらないまま手が進行していきます。
 
 

271手目の局面。
先手は成り馬や白駒に続き飛牛まで作りました。
後手だけに黒い馬や龍が残っている局面はまだ後手に分がありますが、先手も充分戦える形です。
そして実際に295手目で先手の飛牛による後手の飛鷲の素抜きが炸裂。

五分の形勢に戻りました。
 
 

その後は駒を取り合いつつさらに手が進行し…
というところで、412手で双方合意のもと持将棋が成立。
中将棋連盟大会要綱にのっとり駒の点数を数えたところ、
先手51.5、後手52.7
と僅か1.2点の差(歩1枚=1点です)で、後手ハリュマルさん勝利となりました。

1局目から大熱戦が発生してしまいましたが、これが中将棋の醍醐味の一つでもございます。

獅子王戦2021 1回戦第1局 鈴木浩二さんvs中村充さん

中将棋オンライン大会
「獅子王戦2021」
の、1回戦第1局 鈴木浩二さんvs中村充さんの対局の様子をお届けいたします。

鈴木浩二さんが後手、中村充さんが先手で対局が始まりました。

[先手(手前側):中村充さん 後手(奥側):鈴木浩二さん]

 
 

序盤はオーソドックスな展開。
先手が獅子を自分側から見て6段目に上げる「高獅子」の構えを取り、後手はそれを受けるという格好に。
 
 

地味な駒組みが続きますがまず動いたのは後手。
86手目くらいから、a〜cの筋あたりで歩を上がって攻め駒を集め、左側から攻め込むぞ〜という構えを見せてきました。

106手目や138手目は面白い手です。

飛車や奔王を縦に攻め込むと見せかけた獅子取りになっています。
 
 

152手目の7九馬成はかなり豪快な手です。

後手の馬と先手の銀歩の2枚替えで、損得だけで見ると後手の損ですが、
・獅子を前に出して運用できる
・後手の反車で先手の横行を取れる
というメリットもあります。
本譜ではその後、獅子の拠点を生かし龍王→飛鷲の成り込みに成功しました。
 
 

そして終局図。

駒得は先手、駒の働きは赤い馬と飛鷲を作った後手の方良い、
という状況で、さあこれから・・・というところでしたがここで無念の時間切れ。
後手中村さんの勝ちとなりました。

ネット対局は切れ負けが頻発しやすいので要注意なのでございます。